smugglingというビジネス in パレスチナ

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はじめまして。Tryfundsの八杉と申します。初投稿ですが、ご覧いただけると幸いです!

 


パレスチナのSmuggling Industry


朝8時に家を出て、8時15分の電車に乗って8時45分に電車を降りる。9時前には職場に到着…

出発時間や所要時間の差はあれ、日本の平均的なオフィスワーカーの出勤スタイルは大体このようなイメージではないでしょうか。

 

その一方で、以下のような出勤スタイルの人たちがいます。

朝4時に家を出て、8m近いコンクリートの壁の前の車に隠れる。4時30分、周りを見計らってはしごをかけ有刺鉄線を超え、あとはロープで一気に反対側へ降りる。そのまま止めてあった車に乗り込み、職場へ…

 

さて、どの国か?

ご推察の通り、これは中東地域で長年イスラエルの占領下に置かれているパレスチナ自治区のお話です。

 

西岸、東エルサレム、ガザ地区の基本3つの地区から構成されるパレスチナには、Smuggling Industryが存在します。単に訳すと密輸産業で何の面白みもないかもしれませんが、パレスチナの文脈ではsmugglingというと基本2つのシーンが想起されます。1つは冒頭のストーリーのように、イスラエルへの入域・労働許可を持たない西岸のパレスチナ人がイスラエルで不法に就労するというシーン、もう1つはイスラエルによる封鎖で物資不足が著しいガザ地区の住民がトンネルを掘り、物資をエジプトから運んでくるシーン(Smuggling Tunnel)です。

 

どちらも、パレスチナで生活していると実は結構身近な出来事でして、例えば、いつもオフィスの掃除に来ていた男性が来なくなったと思ったら実はイスラエルに行き始めていたり、ガザ地区の南部で農業プロジェクトをしようとしたらトンネルの穴が多くてできなかったりといったことが起こります。だからでしょうか、当然smugglingは違法ですが、パレスチナのsmugglingにはあまり悪い印象を持ちきれないというのが正直なところです。

 


Smugglingがテロにつながった?


さて、序文が長くなりましたが、本日の投稿で注目したいのは1つ目のsmuggling、イスラエルでの不法就労です。今月初めにイスラエルの主要都市でテロ事件が起きたことで、New York Timesが以下のようなタイトルの記事をアップしました。

Smugglers in West Bank Open Door to Jobs in Israel, and Violence

 

「smugglersがパレスチナ人を不法に入域・就労させた結果、テロリストも入ってきた」という、単純な反smuggling&反パレスチナの記事を想像しませんか。

 

ところが、この記事、実はsmuggling批判ではないのです!

(決してsmugglingを法的に肯定しているわけではないですが)smugglingを1つのビジネス、人々に職を与える雇用創出事業として冷静に評価し、現時点での必要性とあり方を提起している点がとてもユニークなのです。

 


Smugglingというビジネス


記者のメッセージ

現状smugglersはイスラエル経済にとっても欠かせない存在になりつつある。smugglersは自分たちのビジネスを守るためにもきっちりテロリストを選別すべき!

 

就労smugglingビジネスがどれだけの市場規模かご存知ですか?

不法就労しているパレスチナ人は推定計30,000人で、一般的には週初めにイスラエルに入り、週末にパレスチナの家族のもとに戻ります。1回のsmuggling料金は65~200ドルとすれば、年間187百万~576百万円です。

 

そして、これが「ビジネス」として成り立っているということは、イスラエル側にパレスチナ人不法労働のニーズがあるということです(8mの壁は何のために作ったのだと言いたくなりますが、ビジネスは「壁」を超えるのでしょう…)。

 

実際、このビジネスがあることで、パレスチナ人は西岸の高い失業率から逃れて平均賃金の2~4倍を獲得し、イスラエルの建設・サービス業者は福利厚生不要の安い労働力を獲得しています。そして上述のようにsmugglersも利益をあげ、逮捕のリスクはありつつも、経済的にはwin-win-winの関係だったりするわけです。

 

smugglersなどおらず、誰もが合法的に安心して働ける社会がベストであることは100%間違いないですが、今この時点で現実的にできる提言はなにかを柔軟に考えることもまた、重要なステップなのだと思います。

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