Comfort Job or Restless Job?

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こんにちは、Tryfundsコンサルタントの八杉です。

今日は、転職について書きます。具体的には「大企業でトップになるためのキャリアとは?」というのがテーマなのですが、おそらく純粋な日本企業ではなく、外資企業や、外資的文化を取り入れようとしている日本企業に当てはまる部分が多いので、そのあたりはご注意ください。

 


誰が最もトップになりやすいでしょうか?


 

さて、早速ですが、質問です。

 

次のような3人の方がいます。いずれも15年間の職歴を持っていて、渡り歩いてきた会社の規模も同じぐらいです。彼らを「最も早く役員になりそうな人」順に並び替えるとどうなるでしょうか。

 

Aさん:男性。学部卒で、15年間に2回転職しました。異業種間での転職ですが、どの会社でも職種は同じ、財務でます。

Bさん:男性。MBA以外の修士号を保有。15年間に1回転職しました。異業種間での転職で、職種も技術からマーケティングに変わりました。

Cさん:女性。MBA保有。15年間ずっと同じ業界にいながら、会社は3回変えています。また、営業、広報、マーケティング、購買と、それぞれの会社での職種も異なります。

 

最も早く役員になりそうな人を順に並べると・・・

 

(これから取り上げる研究報告を前提に)答えはC>B>Aです。つまり、Cさんが一番役員に近いポジションにいて、Aさんが一番遠い…。

どうでしょう、不思議に思う方はいらっしゃいませんか。Aさんが一番自分のspecialtyを磨いてきていて、一番早くCFOになれそうです。逆にCさんは同じ業界とは言えども転職とともに職種まで変わっていて、なんだかスキルに落ち着きがなさそうです。また、Bさんは技術からマーケティングへの転身ですが、全く異業種での技術経験者がマーケティング担当に採用されていること自体、不思議な会社だなと違和感を覚えたりしませんか。

 

その違和感、(もしあれば)もっともだと思います。しかしこの順位付け、実はなかなかしっかりとした統計学的根拠に基づく結果なのです。少なくとも、数百程度のアンケート結果を単に集計しただけといったものではなく、(そもそもそれが純粋な日本企業に当てはまるか、サンプルに偏りはないかといった問題は残るにせよ)きちんと経済学者が個人的特徴などを排除しながら多変量解析を行って出した研究の結果に基づきます。ですので、違和感のある人もない人も、まずは1つの事実として、こういう結果があることを受け止めて頂ければと思います。

※本研究の詳細はこちらをご覧ください:https://www.linkedin.com/pulse/how-become-executive-guy-berger-ph-d-?published=t

 


意外な要因…職種の数!


 

さて、C>B>Aの理由ですが、もちろん決め手となる要因は複数あります。ジェンダー、MBA有無、経験した業種の数、経験した職種の数など、すべてが影響しあってこの結果に至ります。概ね一般的な感覚と一致していて、例えば世界トップ5のMBAプログラム修了は職務経歴13年分に相当するキャリア躍進効果があるそうですが、この中で1つ、ちょっと意外な貢献度を発揮した要因があります。それが最後に書いた「経験した職種の数」です。

 

上述の研究報告で示された代表的な相関性は以下の通り。

  • 経験した職種を1つ増やすことは、3年分働くのと同じだけのキャリア躍進効果ある。
  • 経験した職種が4つになると、世界トップ5のMBAプログラムを修了したのと同じぐらいのキャリア躍進効果がある。

 

因果関係ではないので注意が必要ですし、「経験した職種の数」をいくら増やしても、実は「経験した業界の数」も一緒に増やしてしまうと結果はネガティブになるといったinteractive termsもあるので、単純に色々やればいいというわけではありません。ただ、1ついえることは、少なくともこの現在の社会においてグローバルで現在評価されている企業トップには、異なる職種をたくさんこなしてきた人が多い、ということです。

 

企業のトップになる人がどういう人かと聞かれたとき、ハードワーク、地頭の良さ、リーダーシップ、運など、色々な要素が上がってくると思います。しかし、これらはどれも定量的に示すことは難しい要素で、会って話しても各要素のレベルを知ることはとても難しいように思います。そのようななか、「経験してきた職種の数が多ければ多いほどトップになりやすい」と言われると、ものすごく明確でないですか。求職者からすると、トップへ上るための明らかな1指標になりますし(そもそもトップに上るだけが人生で大事かという議論はさておき)、企業の人事担当からすると、トップに向いた人を見つける明確な1指標になります。人材の重要性が高まる今日この頃、なかなか有意義な1指標ではないでしょうか。

 


Comfort Zoneを抜け出すということ


 

職種を変えるというのは、非常にchallengingな決断です。

今までやったことのないことをやらなければならないということで、これまで積み重ねてきた評価も、ほぼゼロに帰します。しかも自分はある程度の年齢になっていて、周りにはその現場に特化した専門知識をもった若い人が多くいますし、職種が違えば文化も違います。それは、comfort jobからrestless job、すなわち慣れ親しんだ仕事からわざわざリスクしかないような仕事に変えるようなもので、既存の職種にいれば全くしなくてもいい苦労を背負うことになります。

また、そもそも、職種を変更したい人をwelcomeしてくれる会社を見つけること自体がとても困難です。企業サイドからすれば、その人がその新しい職種に適任かを前歴から読み取れないわけですし、せっかく1つの職種で知識・経験を得た社員を、わざわざ異なる職種に異動させることは、会社全体のリソース配分として非効率に思えます。

しかし、社員個人にとっても企業にとっても一見非効率にみえるこのchallengingな決断が、十数年後、実は大きなベネフィットとなってその人にも会社にも戻ってくるのかもしれません。

 

まだまだ議論の余地ありですが、最後に、私個人としては、今回の話はまったく違和感なしです。といいますのも、もとより自分は新卒時代からずっと、まさにこういうchallengingな決断を推奨する環境下でずっと働かせてもらってきているからです。できないことに直面してばかりで、どうしてわざわざ大変なことばかりしているのかと思うときもありますが、それでも諦めず手に入れようとしていると、いつしか、できなかったことができるようになっていて、見えなかったものが見えるようになっています。そして、ある種つねにできない環境に身を置くということなので、周囲の人の温かさが本当に有り難く、感謝と恩返しの心をもって仕事するようになります。

 

ただ、一つだけ誤解がないようにしたいのは、職種を変えつつもぶれない軸があることが、今回の話の大前提だと私は思います。やりたいこと、信じること、とでもいいましょうか。

私がこれまで出会った企業トップの方々で、すごい、こんな上司になりたいと思った方々はみな、確かに色々な職種で経験を積まれたばかりですが、同時に、人間としての軸が一本通っています。職種を変えることでスキルは変わりますが、軸は変わらない。軸の周りにどんどんスキルが付いていくイメージで、軸を太くこそすれ、それがぶれることはない。よって、信頼が揺らぐことはありません。どこにいても何をしていても、疑うことなく一緒に仕事したいと思える方々のままです。

普通はきっと、職種を変えてスキルを付けていく過程で軸がぽきっと折れてしまったり、自分も気付かないうちに軸ごと元の位置からずれてしまったりということが起こるのではないかと思います。だからこそ常に自分に対して注意深く、周囲の声を大切にしながら、いつも自分の軸のポジションをはかりながら努力を続けることが大切な気がします。

Go out of your comfort zone!

 

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